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神戸地方裁判所姫路支部 昭和49年(ワ)315号 判決

原告

中村ヒサヨ

ほか二名

被告

藤本義信

ほか一名

主文

1  原告らの請求はこれを棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告中村ヒサヨに対し、金一一五四万六二八〇円及び内金一〇三七万五〇六〇円及びこれに対する、原告中村義彦、同中村姿子に対し各金二一四万九七七二円及び各内金九七万八五五二円に対する、それぞれ昭和四八年一二月六日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告両名)

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故発生

訴外中村朔一は次の交通事故(以下、本件事故という)により死亡した。

(一) 発生時 昭和四八年一二月六日午後三時一〇分頃

(二) 発生地 兵庫県神崎郡神崎町猪篠字追上国道三一二号線の幅員六メートル余りの路上(同県朝来郡生野町との境界から南方七〇メートル先の地点)

(三) 態様 訴外池田繁俊が普通乗用自動車(以下、池田車という)を運転し、生野町方面から姫路市方面に向い時速四〇キロメートルにて南進中、同所を北進して来た被告藤本義信運転の大型貨物自動車と衝突。

(四) 結果 右池田車に同乗していた訴外中村朔一(以下朔一ともいう。)は、頭部打撲、挫創、前頭骨陥凹骨折により即死した。

2  責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(一) 被告藤本義信は、本件事故現場のような幅員六メートル余りの比較的狭く、坂道となつている道路上においては、道路前方数十メートルを注視し、ハンドル操作には格別の注意を払つて速力の逓減調節に即応できる体勢にて進行すべき業務上の注意義務があるのに、右注意義務を怠り漫然進行した過失があるから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

(二) 被告株式会社高松商店(以下、被告会社という)は、従業員である被告藤本義信運転の右大型貨物自動車を保有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

3  損害

(一) 訴外亡朔一の逸失利益

(1) 給料の分

(イ) 朔一の事故当時の年齢 四七歳

(ロ) 当時の職業、姫路市バス運転手

(ハ) 仮定退職(五七歳)までの年数一〇年(このホフマン係数七・九四五)

(ニ) (ハ)の間の朔一自身の生活費 収入の三〇%

(ホ) 死亡当時の年収 二六五万九八八五円

(ヘ) 仮定退職後の収入減約三〇%、その三〇%を生活費とみて、右年収額よりその二分の一を控除する。

(ト) 稼働可能年数 二一年(このホフマン係数一四・一〇四)

(チ) ホフマン係数を使用

仮定退職までの逸失利益 一四七九万二九五〇円

(265万9885円×70/100×7.945)

仮定退職後の逸失利益 八一九万一一一五円

((265万9885円×1/2×(14.104-7.945)))

従つて、合計 二二九八万四〇六五円

(2) 退職金の分

朔一が仮定退職時まで稼働した場合には、昭和五八年一二月三一日において、五四〇万四四四〇円の退職金が得られるところ、右金員を現在支払を受けるべき額を算出するためにホフマン係数を乗じた後、現実に受け取つた額を差し引くと、四七万一三二一円

(540万4440円×0.667-313万3440円)

(3) 共済年金の分

(イ) 右退職後、死亡当時の朔一の年齢の平均余命たる二八・〇八年(このホフマン係数一七・二二一)である昭和七六年一二月三一日まで、一ケ年一〇〇万一九〇七円を受けとることができたはずであるから、

((100万1907円×(17.221-7.945)))

九二九万三六八九円

(ロ) 六七歳経過後、七四歳(余命)までの七年間の生活費を三〇%として算出すると、

((100万1907円×(17.221-14.104)×30/100))

九三万六八八三円

(ハ) 更に昭和五一年三月迄に扶助料として、五八万一六二〇円を受け取つた。

(ニ) 従つて、(イ)より(ロ)(ハ)を差し引くと、

七七七万五一八六円

(4) インフレ昇給分 昭和四九年三月乃至同五一年四月の間には、二八%のベースアツプがあつた

(265万9885円×1/12×0.28×26ケ月)

一六一万三六六三円

(二) 慰藉料 各二〇〇万円(計六〇〇万円)

(三) 葬式費用 三五万円(原告中村ヒサヨ負担)

(四) 仏壇購入費 八〇万円(原告中村ヒサヨ負担)

(五) 弁護士費用 一九〇万円(各三分一負担)

4  原告らの相続

原告中村ヒサヨは朔一の配偶者、同義彦、同姿子は朔一の実子であり、原告らは、その相続人として、3(一)(1)(4)を各三分の一の割合にて承継取得し、3(一)(2)(3)は、原告中村ヒサヨが単独にて承継取得した。

5

(一)  自賠責保険からの受領分 二〇〇〇万円

(二)  訴外池田繁俊加入の任意保険からの受領分 六〇四万八四〇九円

(いずれも、各三分の一宛充当)

6  よつて、被告らに対し、原告中村ヒサヨは、一一五四万六二八〇円及びインフレ昇給分と弁護士費用を除く内金一〇三七万五〇六〇円に対する、同中村義彦、同中村姿子は各二一四万九七七二円及びインフレ昇給分と弁護士費用を除く各内金九七万八五五二円に対する、それぞれ本件事故発生日である昭和四八年一二月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告両名)

1  請求原因1(一)(二)はいずれも認める。

2  同1(三)は否認する。すなわち、

(一) 本件事故現場は、道幅約六・二五メートル(センターラインより東側約二・九メートル、西側約三・三五メートル)の南北に通じる道路であり、右現場付近では南から北へ勾配約一〇〇分の六の上り坂となつており、道路東側には、道路下約八メートルを猪篠川が右道路に沿つて流れており、道路西側には、幅約〇・五メートルの側溝があり、その西側は山がせり出してきている。

(二) 本件事故当時、被告藤本は、大型貨物自動車(以下、藤本車ともいう)を運転して、南から北へ向けて進行していた。同被告は当時作業現場への往復に連日右道路を通行しており、道路状況には明るかつた。本件事故当時、藤本車は相当量の荷物を荷台に積載しており、又、同車の進路前方約四〇乃至五〇メートルの地点を訴外小寺幸司運転の普通貨物自動車(以下、小寺車という)が進行していたことや、右事故現場が前記のように藤本車には上り勾配であつたこともあつて、藤本車は時速約二三乃至二五キロメートルの速度であつた。

(三) 他方、訴外池田繁俊運転の普通乗用自動車は、本件事故現場付近を相当高速度で進行していた。そのうえ、右池田は事故当日は相当睡眠不足であつた。

(四) 池田車は、本件事故現場直前で右小寺車とすれ違つたあと、センターラインより西側(反対車線側)を進行していた藤本車の進行方向直前に、センターラインをオーバーして進入して来たため、藤本車右前バンパー付近に池田車の右前バンパーフツクが衝突するに至つたものである。このことは、本件事故現場の道路幅が、センターラインより西側が約三・三五メートル、藤本車の車幅が約二・五メートル、藤本車の右車輪のスリツプ痕がセンターラインの西側約〇・七メートルの位置に、センターラインに平行して印象されていることからも明らかである。被告藤本としては、池田車が小寺車の後でセンターラインを割つて進入して来たのを発見するや、直ちに急制動をかけて、自車を道路最左端(西側)に寄せたが、藤本車が停止する直前に池田車が制動もかけないまま約三〇度の角度で衝突して来たものである。(藤本車の車輪によつて道路に印象されたスリツプ痕の長さが、左側約五・六メートル、右側約五・五メートルであつたことから、事故直前の藤本車の速度が時速約二三キロメートルであつたこと及び池田車のスリツプ痕が全く印象されていないことから、同車が全く制動をかけずに藤本車に衝突したものと認められる。)従つて、本件事故は、池田車の制限速度違反、進行方法不適切、進路妨害、前方不注視という一方的過失により惹起されたものであつて、藤本車としては、前車との車間距離を充分にとつて、たえず前車の動静に注意して、自車を常に適当な制禦をなしうる状態において運転していたもので、本件のように、池田車が突然、前車の排気ガスの中からセンターラインをオーバーして進路前方の路上に飛び出してくることまで予想して操縦をしなければならない注意義務があるということはできない。すなわち、被告藤本としては、安全確認に関する注意義務を総べて尽しており、過失は全くなかつたものであり、被告会社も藤本車の運行について注意を怠らなかつたものである。

3  同2(一)(二)のうち、被告藤本が被告会社の従業員であることは認めるが、その他の事実は否認する。

4

(一)  同3は総べて不知。

(二)  同3(一)(1)についての意見

(1) 姫路市交通局における就労可能年齢は満五〇歳が相当で原告主張の如く五七歳までも運転手をすることはできない。

(2) 生活費は三〇%ではなく三五%が相当である。

(3) 退職後の就労可能年齢は、六七歳が相当である。

(三)  同3(一)(3)についての意見

共済年金は労働の対償として支払われたものではなく、その掛金が前提となつて、その掛金の額及び期間に応じて支払われる。従つて、これら年金は事故と因果関係ある損害となすことはできない。

仮に因果関係があるとしても、給与のうち四・六五%は共済掛金に充てられるのであるからその掛金分は得べかりし給与のうちから控除さるべきである。

又、原告中村ヒサヨは、昭和五〇年九月までに金四六万二六四〇円、その後も原告ヒサヨ生存中毎年少なくとも金二九万三〇四〇円の支給がなされる筈であるからこの分も控除さるべきである。

5  同5(一)(二)はいずれも認める。

三  被告会社の抗弁(免責の抗弁)

1  被告藤本は、二2(一)乃至(四)で主張したとおり無過失であり、本件事故の原因は、訴外池田の過失によるものである。

2  藤本車には機能上構造上の欠陥障害共に存在せず、被告会社も運行に関する注意を怠つていなかつた。

被告両名の仮定的抗弁

1  仮に被告両名の責任が肯定された場合においても、共同不法行為者の一方が、その過失割合を主張、立証した場合には、当該不法行為者には立証された過失に応じた分割責任か、過失割合に応じた範囲での連帯責任(一部連帯責任)を負わしめるのが、損害発生に関与した者の間の公平を図るうえで妥当である。けだし、共同不法行為につき、共同不法行為者各人がその過失割合(寄与度)の如何にかかわらず、全損害につき賠償責任を負わされるゆえんは、原告側で各共同不法行為者の寄与度までを立証させることが酷だという考慮が主であり、加害者の一方が資力に乏しい場合の被害者の保護を図るという考慮は、少なくとも市民法レベルでは従属的な理由である。そうすると、過失割合が極端に少ないのに、たまたま資力がある共同不法行為者のみが実質的には責任を負わされるという不公平な結果は、被害者の保護を強調する余り、加害者に一方的犠牲を強いることになり妥当でないからである。

そして、本件事故の場合は、前記したとおり、責任の大部分は、訴外池田にあることは明らかであるから、被告両名に全損害の賠償を求める原告らの請求は失当である。

2  本件事故の場合には、被害者たる原告らが、過失割合の大なる、従つて、損害賠償の負担部分の大なる加害者である訴外池田に対し免除をなしているが、このような場合には、免除に絶対的効力を認めるべきである。そうしないと、本訴訟において被告らが敗訴した場合、被告らから被免除者である訴外池田に対し、求償権を行使しうることとなり、右池田の示談により本件事故についての紛争から解放されたという期待を無視することになり、妥当でない。

3  過失相殺の主張

(一) 本件では訴外池田の過失を被害者側の過失とみるべきである。なぜなら、訴外朔一と右池田とは職場の同僚であり、事故当時は魚釣りのために該車両を利用しており、運転手も交互に交替していたなどの事情に鑑みれば、社会関係上一体をなすとみられるような関係にあるというべきだからである。

(二) 仮に右主張が認められないとしても、訴外池田の立場からは原告らに対し、好意同乗による減額の抗弁をなしうるところ、被告両名も、右事情を主張して減額の抗弁をなしうると解すべきである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1(一)(二)の事実は当時者間に争いがなく、同1(四)の事実は被告らは明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

二  そこで次に本件事故の態様について検討することとする。

1  いずれも成立に争いのない甲第一乃至第五号証及び乙第一乃至第六号証によれば、次のような事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(一)  本件事故現場は、道路幅約六・二五メートル、内センターラインより東側が約二・九メートル、西側が約三・三五メートルの、南北に通じる、歩道のない道路上であり、右事故現場付近では、南から北へ勾配約一〇〇分の六の上り坂の道路の見通しは割合よいところで、道路東側には、猪篠川が約八メートル下方を、右道路に沿つて流れており、道路西側には、幅約五〇センチメートルの側溝があり、その側溝に接して崖の巌石がせり出ている。なお、制限速度の規制はない。

(二)  池田車は、車幅一・五メートル、長さ三・九九メートル、高さ一・三七メートルの普通乗用車であり、藤本車は、車幅二・四九メートル、長さ七・一〇メートル、高さ二・七五メートル、右側車輪の中央部分から車体右端部分までの水平距離は約三〇センチメートルの大型ダンプカーである。

(三)  本件事故現場の道路西側車線には、藤本車の右側車輪のスリツプ痕がセンターラインより約九〇センチメートル西側に、センターラインとほぼ平行に約五・五メートルの長さに、左側車輪のスリツプ痕が道路西側の側溝より約五六センチメートル東側に、約五・六メートルの長さに、それぞれ印象されている。右スリツプ痕に続いて北側に、長さ約五・二(左車輪)乃至三・〇(右車輪)のにじり痕が、東側へ曲りながら印象されている。

(四)  他方、池田車のスリツプ痕は全く印象されていない。ただ、同車の右側車輪のにじり痕が、センターラインより西側約七〇センチのところから、約三・四メートルの長さで東側へ曲りながらセンターラインを越えて印象されており、又、同車の擦過痕が、西側車線内のセンターラインより約七〇センチメートル、約六〇センチメートル、約五〇センチメートル付近に計三点それぞれ長さ約四〇乃至五五センチメートルずつ印象されている。

2  1で認定した客観的外形的事実に、証人小林隆の証言、被告藤本義信及び取下前相被告池田繁俊(後記措信しない部分を除く)の各本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故当時、藤本車は、自車の車線(西側車線)のセンターライン内を、土砂を約一四、五トン積載し、ギアをセカンドにして、時速三〇キロメートル内外のスピードで、前方を走行する小寺車との車間距離を約四〇メートルに保つて追走していた。

(二)  被告藤本は、右小寺車とすれ違つて対向してくる池田車を約四〇メートル前方に発見した。その時の池田車のスピードは時速四〇乃至五〇キロメートルであつた。右小寺車からは排気ガスがでていたが、被告藤本が見て池田車を認めるのが困難なほどの濃度、量ではなかつた。

(三)  池田車は、小寺車とすれ違う時には、自車線内のセンターライン寄りを走行していたが、本件事故直前(池田車が時速約四五キロメートルとすると秒速は約一二・五メートルであり、藤本車が時速約三〇キロメートルとすると秒速は約八・三メートルであるから、両車の車間距離は一秒間に約二〇・八メートル縮まるところ、池田車が前記小寺車と何の問題もなくすれ違いをなしたというのが認められるから、そういえるためには、すれ違い後、少なくとも一秒間位は車線の方向を変える動きがなかつたと考えるべきであり、そうすると、池田車発見時の池田車と藤本車との車間距離約四〇メートルから逆算して、早くても約一秒間前から池田車の進行方向が変化し始めたと考えるべきである。)にセンターラインをオーバーして、藤本車の走行車線に進入したものである。

(四)  そのため、被告藤本は、咄嗟に急ブレーキをかけたが、間に合わず、何らの制動措置をも講じないで漫然と進行して来た池田車の右前部と自車の右前部付近とが、センターラインより西側車線へ約一・一五メートル入つた地点で衝突してしまつた。

(五)  衝突後、池田車は、藤本車の重量に押されて後退し、その際、前記1(四)の擦過痕やにじり痕をつけたものである。又、藤本車は、ハンドル操作が不能となつたため、道路東側の猪篠川に転落した。

右認定に反する成立に争いのない甲第三号証及び右池田本人尋問の結果のうち、藤本車がセンターラインをオーバーしており、池田車はオーバーしていないとの部分は、前記スリツプ痕、にじり痕、擦過痕の各位置や衝突場所などに照らし措信しえないし、乙第一乃至第六号証の、西側車線を走行する車の大部分がセンターラインをオーバーしているとの立証部分については、それらが乙第二号証を除いて対向車のない場合の車両の位置にすぎないと考えられるうえ、前記ブレーキ痕等の存在と照らし合わせ、藤本車がセンターラインをオーバーしていたとの証拠としてはいずれも価値のないものと言わねばならないし、又、その他に、右認定を左右するに足る証拠はない。

三  右摘示した事実を前提に、前記池田、被告藤本の過失の有無について検討し、本件事故の責任の有無を考察することとする。

1  まず前記池田は、自動車運転手として、絶えず前方を注視して対向車の有無を確認し、対向車のある時は、ハンドル操作に充分留意して対向車線内にはみ出さないように進行すべき注意義務があつたのに、これを怠り、漫然とセンターラインをオーバーした過失があり、本件事故について責任者である。

2  次に、被告藤本についてであるが、本件事故は、右認定のとおり突然何の予告もなく池田車がセンターラインをオーバーして来て自車線に進入して来たために発生したのであるところ、被告藤本にとつては、直線でしかも、前記のような緩い坂道の上手に位置していて、その前方から対向して来る大型ダンプカーである藤本車を十分見通せる筈の池田車が自車とすれ違う僅か一秒位前に道路幅の広くもない対向車線に進入するような事態が生じることを予測し得べきことではなく、一般の運転手としても亦同様と言うべきである。なお、通常交通事故に際してその過失の有無について考慮されるところは、前方注視による危険の早期発見、相手方への警告のための警笛吹鳴、あるいは、危険回避のための徐行、急制動、急ハンドルの措置の完全かどうかと云うことであるが本件においては、被告藤本において前方注視を怠つたとすることはできず、池田車の突然センターライン内への進入に対して警笛吹鳴の余裕はなく、仮に吹鳴していてもその相手に効果を与え得なかつたものと考えられる。また、被告藤本車の速度は前示のとおりであり上り勾配を進行する車両として予め徐行しなければならない場所でも状況でもなかつたし、同被告は、右危険を感じて急制動の措置を執つているが、池田車が何らの制動措置を講じなかつたため衝突は避けられなかつたと考えられるし、更に急ハンドルについていえば、前記したように、本件道路西側車線の幅員は約三・三五メートル、その西側は幅五〇センチメートルの側溝、これに接して山がせり出しているのであるから、左側(西側)ヘハンドルを切るにも限度がある。また、藤本車の左側車輪が側溝一杯に寄つたとしても、前記衝突個所がセンターラインより約一・一五メートル西側の所であることに鑑みれば、結局、衝突は避けられなかつたとみるべきである。してみれば、被告藤本には通常考えられる運転手としての措置に何ら科むべきものはなかつたと云わなければならない。

以上要するに、被告藤本には本件事故に関して何らの過失はなく本件事故については無責任であると言うべきである。

3  そこで更に、被告会社の責任について考えるに、被告藤本には、本件事故に関して過失がなく、取下前の相被告池田の一方的な過失に起因するものと認められることは前判示のとおりであり、右認定事実及び被告藤本の本人尋問の結果を総合すれば、被告会社所有の藤本車の構造上の欠陥及び機能上の障害がなかつた(尤も本件事故は、これら障害に基づかずして発生している。)ことが認めることができる。従つて、被告会社も自賠法三条但書により本件事故につき責任を負うべき筋合ではない。

四  結論

してみれば、原告らの本訴各請求は、その余の争点について判断するまでもなく失当であつて、これが排斥を免れない。

そこで、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原勝一 三宅俊一郎 古川博)

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